当事者インタビュー - actual story -

薬剤師としてやれることがいっぱいある 薬剤師 下沢さんの場合

50代女性
薬剤師

病棟薬剤師として多忙な日々を送っていた下沢さん。発症直後も隣の患者が気になる、同室の人のリハが気になる、退院後は高次脳機能障害の人が気になる、この障害をもっと学びたい。医療職ならではの自分ができることがある・・そんな夢も語っています。

まとめ

  • すぐに仕事に戻れると思っていたけど・・・
  • 職場のスピードについていけないでしょ?
    この業務量はこなせないでしょ?
    ミスがあったらどうするの?
  • とにかく疲れる
  • 初めは、書類整理だけでも1時間したら少し休むくらい
    一日通しで働けない。休憩を挟まないと、ぼーっとしてくる
    やたらと眠気が襲ってくるときがある
  • イライラする
  • 些細なことでイライラする
    湧き上がる感情を抑えるのが大変
    小さい子供のように家族に当たったこともある
  • やっぱり以前の自分と違う
  • もっと粘り強かったのに集中力が続かない
    もっとたくさんのことに挑戦したいのに、同時にできない
    以前は簡単にできていたのに、患者さんの顔と名前が覚えられない
  • 数年たっても再発の恐怖は感じる
  • 無理はできないので、いつも気を付けている

専門家による寸評

言語聴覚士西村 紀子

 医師である山田規久子さんが書いた『壊れた脳 生存する知』は、医師の視点でご自身の症状を観察し記述した本です。背景にある高次脳機能障害とは何かを探求したい一心で、第一人者であった山鳥重先生から学び始めます。脳出血を患った脳外科の医師が、この本を読みながら、「山田さんは、これはなんだろう? と楽しんでいる気がする。僕も、そんなところがある」とおっしゃっていました。医療職の方は、職業柄「一症例としての自分」を観察し、病気や障害について探求する傾向があるのかもしれません。今回取材した下沢さんは、大学病院にお勤めしていた薬剤師さんです。発症のきっかけは「夏場の脱水」と理解し、後遺症である高次脳機能障害についても勉強を始めます。ショックを受けるかもしれないと、曖昧にしか説明しない医療職もいますが、学びたいという思いがある患者さんには、その気持ちを信じて、しっかり伝えるべきだと思います。むしろ「一緒に学ぶ」姿勢が良いと思います。同じ情報をみても、感じるものは違い、そこから私たち医療者が学ぶことは多いはずです。
 そして、「入院している他の人が気になる」のも職業特性かもしれません。発症してすぐに入ったICU(集中治療室)では、隣にいる失語症の人の症状を観察し、他でアラームが鳴れば「看護師さん、早く早く」と気になります。リハビリが始まれば、他の人と自分のプログラムがどう違って、それがなぜなのかを考える。復職に際しても、「現職復帰」にこだわる人を見ては「再発リスクが分かっていないのかな?」と首をかしげる。他の患者さんの個人情報に触れない程度に、医療的なお話を一緒にするのも、患者さんであり医療者でもあるご本人のアイデンティティを尊重した関わりになるのではないでしょうか。
 最後ですが、「同じ障害を持つ人に、医療職として貢献したい」という思いがある人も多く、執筆、講演、セミナー、ブログなどで発信されています。「先生は他人事だから分からないんです!」と感じる患者さんにとって、とても心強い存在でしょう。当事者であり医療職である下沢さんのような方がピアサポートとして活躍できる仕組みが、急性期から生活期にわたってできると良いと思います。

取材から見える事

文筆業鈴木 大介

鈴木 大介

 かつては急性期の脳外病棟の勤務歴もあった下沢さん。そのお話で最も胸に響いたのは、かつて医療者として持っていた下沢さんの「脳卒中後の当事者像」と、その後ご自身が当事者になったのちの自己像のギャップです。
 現場の医療者のリアルな感覚は、下沢さんの言葉を借りれば「急性期のものすごい状態を見るスタッフには『その人のキャリアと人生が終わった』と見える」「とにかく発症して2か月以内にリハビリ病院に送ることが急性期病院での関わり方。その後を全然知らなかった」確かに、生きているだけでも奇跡といった患者を扱う救命最優先の現場では、これが当然の感覚でしょう。
 けれど、ご自身が当事者として経験を重ね、かつ他の多くの当事者の回復エピソードを聞く中で、今、下沢さんが思うのは、急性期の医療スタッフにも当事者の回復を諦めてほしくないということ、そして急性期の脳卒中センターにこそ、当事者のピアを置くべきだし、それが「医療職の脳卒中当事者の復職場所になったらいい」という展開だそう。
 本当に、それが実現できたらどれほど有難いことでしょうか。僕自身当事者として、急性期や回復期の不安と混乱のただなかで「最も求めたもの、求めても得られなかったもの」が、その後の日常復帰や回復を、現実感のある、かつ科学的な裏付けのある、イメージとして掴めるようなエピソード情報でした。あの時、回復を経た「医療者兼当事者」が、ちょっと相談できる距離にいてくれたら、どれだけ救われたことか。
 「急性期の病院のスタッフにこそ、身体的後遺症やメンタル・高次脳機能障害についてももっと知ってほしいので、関連するような研修会や学会のアナウンスを職場でも紹介しています。発症当時から、これからたどる回復経過やお悩み、その方の障害に適したリハビリ施設やシステム含めて、いつでも相談できる当事者兼医療職のピアとして、現場で役に立てたらいいですね」と下沢さん。
 本音を言えば、高次脳機能障害の当事者となったばかりのころの僕は「この障害の当事者になった医師や医療者なんてたくさんいるだろうに、どうしてこんなにも現場の医療者はこの障害のことを知らないんだろう、なぜ当事者から伝わっていないんだろう」と思ったことが何度もあります。
 医療者に当事者を伝える、医療者兼当事者として新たな当事者を支える。下沢さんのような方々が、あちこちで立ち上がってくれることを願うばかりです。

インタビュー記事

翌日から復職するつもりだった

  下沢さんの病前の仕事は、病院薬剤師。学校を卒業後、丸23年同じ大学病院で仕事を続けられ、責任のある立場で働いていました。病院薬剤師の仕事とは、入院患者に対して医師が処方する薬を単に調剤するだけのものではありません。


「入院した患者さんが普段飲んでいる薬やアレルギーを確認して、これから使う薬の内容や目的を患者さんが理解できるまで説明するのが基本業務。さらに、患者さんの副作用はどうなのか、そのお薬を継続するメリットについての判断などをした上で、時には口うるさいぐらいに医師の処方に突っ込んだ意見を言うこともあります。担当医にとって専門外の疾患を別に抱えている患者さんの場合などは、その疾患に使っている薬の扱いや、並行して使うお薬の選択や量などを相談されることも多いです」


 いわば、病院内における医薬品のオーソリティ。ご自身でも「やりがいのある仕事だったと思います」と言います。


 そんな下沢さんは、急性期でも回復期でも、高次脳機能障害という診断を具体的に受けていない、いわゆる未診断の当事者です。人の命に直結する病院薬剤師という仕事で、未診断で復職では、さぞや致命的な失敗や、大きな困難、喪失体験に直面せざるを得なかったのでは? と思いきや、下沢さんの復職とその後の経緯は、驚くほどに穏やかです。


 「いや、私、はじめは相当能天気な当事者だったと思うんです。利き手が動けば車いすでも仕事はできるし、病院なら車いすはあちこちに置いてあるしなんて思って、回復期病院を退院したら次の日から復職するつもりでした。それで実際に退院した日に脳外科の教授に挨拶しに行ったら『仕事したいのは分かるけど、もうちょっと考えなさい。君ができるのは分かっているけど、薬剤師の仕事はスピードも求められるでしょう。もう少しじっくりリハビリして』って言われて……。そのとき『リハビリは一生必要だよ』とも言われて、そんなに簡単に治るものでもないことを自覚しました。装具と杖でやっと歩ける程度では当然そうなりますよね(笑)」


 早く仕事に戻らねば!と焦らなかったことには、再発の恐怖もあったと言います。


「今でも再発の恐怖はあります。以前、循環器の担当をしていて、患者さんが、特に心原性の人とか(心臓内でできた血栓が)脳に飛んで脳外科に行ってしまうケースをたくさん見てきているので、恐怖感が普通の人よりも大きいとは思う。性格上、病前通りの仕事に戻って、同じ仕事と生活を始めたら、絶対過労やストレスで再発させちゃうなって、自分自身も周囲も分かっていたので」


 そんなこんなで急いで復職する道を取らなかった下沢さんですが、休職の間に居住区の「障がい者福祉センターあしすと」の「社会リハビリテーション」という通所リハプログラムに通う中での経験が、その後の復職を支える大切なキーとなりました。


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