当事者インタビュー - actual story -

ショートスリーパーに憧れていた 印刷業 田仲さんの場合

50代男性
会社員

もともとPCをよく使用していたので、病後もツールを駆使し、苦手なところを補助しながら仕事をこなす田仲さん。日々のリハビリテーションも、ゲームなどを活用、できなかったことができるようになっていると気が付くと、とても嬉しいと言います

まとめ

  • 相手の話が聞き取れない
  • 雑音がある中で、相手の話に集中できない。同じ音量で音が入ってくる。
    一生懸命聞き取ろうとして、とにかく頭が疲れる。会議も、雑談も同じで、複数の人がいると聞き取れない。
  • 途中で呼び止められると、作業に戻れない
  • 作業中に、電話がかかってきたり、話しかけられると、なんの作業をしていたのか?一瞬わからなくなったり、元の作業に集中するまでにめちゃくちゃ時間がかかる。お願いだから、放置してくれ!これだけに集中させてくれ!と叫んでいる
  • スケジュールを忘れてしまう
  • 忘れたことさえ気がつかない。メモして、すぐにスマホに打ち込んで、さらにまとめてPCに打ち込む。これは病前からの習慣だったから出来たのかもしれない。検索機能があるから
    全く自分は覚えていなくても、取引先に迷惑をかけることはない。
  • クリエイティブな提案ができなくなった
  • 相手の意図を汲み取って、相手が考えつかない提案をするのが得意だった。言われた内容を追うだけになって、かつてのわくわく感が減ってしまった。

専門家による寸評

言語聴覚士西村 紀子

脳卒中や頭部外傷は、ある日突然発症します。特に急性期病院では、これまで何不自由なくできていたことができなくなったショックと混乱で、リハビリテーションなんてやる気になれないという人が多いものです。そうした人達の心理を理解しつつも、それでも医学的に見て回復するスピードが速いこの時期を逃したくない私たちリハビリ職は、なんとか軌道にのせたいと焦るのです。ところが、田仲さんは、楽しかったと言います。昨日できなかったことが今日できる、それが嬉しかったと。病前と比べてできなくなった自分ではなく、昨日の自分と比べ、良くなっていると喜んでいるのです。
 重度であっても、その障害とうまく付き合って生活している人は、「発症直後はこうだった」「この前はこうだった」と、発症後を基準点にされている発言が多いです。田仲さんは、発症直後からこのように捉えているということが驚きでした。
反対に、かなり改善しても、本人が全く改善を認めない人もいます。「良くなっていますよ」という医療職の言葉に、「わかってくれない」と心を閉ざしてしまいます。医療職は、発症してからのことしか知らないので、本人と医療職の間では、そもそもの基準が違うのですね。100%に戻るのは難しい障害ですから、いつも発症前を基準にして比較していたら、とても辛くなります。「発症直後からの自分を基準にしてみてください」「先月の自分と比べてみたらどうでしょう」と視点の切り替えを促す声かけが必要です。今ある自分を受け入れて、これからの人生を再構築するためにも、こうした視点の切り替えは大事ですが、なかなか難しいのも事実です。しかし、そこは諦めず、声をかけていきたいと思っています。
 ちなみに失語症のある人に、五十音表を渡すのは間違いです。未だにこの誤解があります。失語症の人は、仮名が難しくなるのです。たまたま、田仲さんは、失語症状に関しては急速に改善したので、五十音表をもとに自分で練習出来ましたが、多くの人は、こんな仮名文字でさえわからなくなったのかとショックを受けます。自主練習用に何か渡すのであれば、名前や住所、身のまわりにある漢字で表す言葉(例えば、本や時計など)そうした言葉を書いたものを渡してください。

取材から見える事

文筆業鈴木 大介

鈴木 大介

 田仲さんのお話で最も興味深く、僕自身も痛いほど共感できるのが、クリエイティブな業務における「中断すると戻れなくなる」感です。元々高次脳機能障害には、一度始めた作業を中断するのが苦手になる特性や、中断したのちに元の作業に戻るのが困難な特性がありますが、これは僕も健常者だった頃には全く想像もしたことのない強い不自由でした。
 驚くのは、この「戻れない」が、やっている作業の質によって、全く強度を変えてくることです。例えば単純に大量の計算をこなすとか、手を動かし続ければよいような業務では、どんな邪魔があってもすんなり作業に戻ることができます。ところがこれが、ゼロから原稿を書くとか、人に何かを説明するための言葉を考え出すといった仕事、あまり経験のない作業の手順を考え出しているといった場面だと、全く戻れない! それは、全く別物の難易度なのです。
 例えば原稿を書くという作業は、まず頭の中でこれから書こうとしていることを想起し、脳内の「思考ノート」にある程度内容がまとまった状態から、実際に文字にアウトプットする作業でしょう。ところが、そんな作業中にちょっとほかの作業を挟むと、この脳内の思考ノートが一気に全部消え去ってしまうような感覚なのです。こうなると、初めから全部やり直しで、電話対応の前に思考ノートを作った時間のすべてが無駄になってしまうといえば、その猛烈な妨害感と徒労感が分かってもらえるでしょうか。
 こんな時の当事者にとってのいら立ちは、作業に戻れないことやそれまでの思考を無駄にされてしまうことに加え、やっている作業の終了時間が大幅に読めなくなってしまうことです。それは、例えば邪魔が入らなければ、3時間ほどで済むはずの作業が、ほんの10分の邪魔が入るだけで、その日のうちに終わらなくなるというレベル。当然そこには大きないらだちや混乱も伴いますし、易怒(怒りやすさ)の特性を持つ当事者の場合は、職場での社会行動障害に直結しかねない事案でしょう。
 実際僕自身も、この不自由については仕事に戻っていく中で大きな苦痛でもあり、共に仕事をする取引先に説明するのも困難(業務のうえで「とはいえそこに配慮してたら仕事にならないじゃん」というのが自分でもわかるので、言い出しづらい)な部分でした。

インタビュー記事

【特殊印刷20年】

田仲さんの病前職は、印刷業。一般的なオフセット印刷の製版会社で10年。その後は箔押しをはじめとする特殊印刷を得意とする印刷会社(分類としては製造業だそうです)

で、オペレーター(技術職)を長年続けた後、倒れるまでの3年ほどは営業部の係長として、睡眠時間4時間前後という多忙な職業人生を送っていました。

麻痺が軽かったのもあって、入院は2か月ほどで、お勤めの会社の専務が管理部の社労士と話してくれたようで、まずは午前中2時間の時短勤務からお仕事に戻った田仲さんでした。

元々副業としてデザインや雑誌に依頼されてのイラスト制作などの副業をしていた田仲さんは、会社に戻る前にはご自宅でその副業を再開しましたが、それら副業の仕事の質には病前とあまり変化を感じなかったそう。

けれども会社に戻る中で、まず困難に感じたのが、電話対応をはじめとする「音の問題」でした。


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