薬剤師としてやれることがいっぱいある 薬剤師 下沢さんの場合

病棟薬剤師として多忙な日々を送っていた下沢さん。発症直後も隣の患者が気になる、同室の人のリハが気になる、退院後は高次脳機能障害の人が気になる、この障害をもっと学びたい。医療職ならではの自分ができることがある・・そんな夢も語っています。

専門家による寸評

言語聴覚士西村紀子

 医師である山田規久子さんが書いた『壊れた脳 生存する知』は、医師の視点でご自身の症状を観察し記述した本です。背景にある高次脳機能障害とは何かを探求したい一心で、第一人者であった山鳥重先生から学び始めます。脳出血を患った脳外科の医師が、この本を読みながら、「山田さんは、これはなんだろう? と楽しんでいる気がする。僕も、そんなところがある」とおっしゃっていました。医療職の方は、職業柄「一症例としての...

専門家による寸評

文筆業鈴木大介

 かつては急性期の脳外病棟の勤務歴もあった下沢さん。そのお話で最も胸に響いたのは、かつて医療者として持っていた下沢さんの「脳卒中後の当事者像」と、その後ご自身が当事者になったのちの自己像のギャップです。

 現場の医療者のリアルな感覚は、下沢さんの言葉を借りれば「急性期のものすごい状態を見るスタッフには『その人のキャリアと人生が終わった』と見える」「とにかく発症して2か月以...

インタビュー記事

翌日から復職するつもりだった

  下沢さんの病前の仕事は、病院薬剤師。学校を卒業後、丸23年同じ大学病院で仕事を続けられ、責任のある立場で働いていました。病院薬剤師の仕事とは、入院患者に対して医師が処方する薬を単に調剤するだけのものではありません。

「入院した患者さんが普段飲んでいる薬やアレルギーを確認して、これから使う薬の内容や目的を患者さんが理解できるまで説明するのが基本業務。さらに、患者さんの副作用はどうなのか、そのお薬を継続するメリットについての判断などをした上で、時には口うるさいぐらいに医師の処方に突っ込んだ意見を言うこともあります。担当医にとって専門外の疾患を別に抱えている患者さんの場合などは、その疾患に使っている薬の扱いや、並行して使うお薬の選択や量などを相談されることも多いです」

 いわば、病院内における医薬品のオーソリティ。ご自身でも「やりがいのある仕事だったと思います」と言います。

 そんな下沢さんは、急性期でも回復期でも、高次脳機能障害という診断を具体的に受けていない、いわゆる未診断の当事者です。人の命に直結する病院薬剤師という仕事で、未診断で復職では、さぞや致命的な失敗や、大きな困難、喪失体験に直面せざるを得なかったのでは? と思いきや、下沢さんの復職とその後の経緯は、驚くほどに穏やかです。

 「いや、私、はじめは相当能天気な当事者だったと思うんです。利き手が動けば車いすでも仕事はできるし、病院なら車いすはあちこちに置いてあるしなんて思って、回復期病院を退院したら次の日から復職するつもりでした。それで実際に退院した日に脳外科の教授に挨拶しに行ったら『仕事したいのは分かるけど、もうちょっと考えなさい。君ができるのは分かっているけど、薬剤師の仕事はスピードも求められるでしょう。もう少しじっくりリハビリして』って言われて……。そのとき『リハビリは一生必要だよ』とも言われて、そんなに簡単に治るものでもないことを自覚しました。装具と杖でやっと歩ける程度では当然そうなりますよね(笑)」

 早く仕事に戻らねば!と焦らなかったことには、再発の恐怖もあったと言います。

「今でも再発の恐怖はあります。以前、循環器の担当をしていて、患者さんが、特に心原性の人とか(心臓内でできた血栓が)脳に飛んで脳外科に行ってしまうケースをたくさん見てきているので、恐怖感が普通の人よりも大きいとは思う。性格上、病前通りの仕事に戻って、同じ仕事と生活を始めたら、絶対過労やストレスで再発させちゃうなって、自分自身も周囲も分かっていたので」

 そんなこんなで急いで復職する道を取らなかった下沢さんですが、休職の間に居住区の「障がい者福祉センターあしすと」の「社会リハビリテーション」という通所リハプログラムに通う中での経験が、その後の復職を支える大切なキーとなりました。

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